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2025-04-14

about「正門ひろばeⁿ(セイモンヒロバ エン)」

日本空間デザイン賞2024 Shortlist(入賞)

次世代の学び舎へ生まれ変わるための正門改修プロジェクト

青森田中学園の歩みとプロジェクトの背景

1946年創立の学校法人青森田中学園は、77年の長きに渡り地域の人材育成に力を注いできた。現在は横内キャンパスを中心に、大学・大学院、短大、専門学校、附属幼稚園を擁する。
高度経済成長と人口増加の時代、青森県も類に漏れず経済発展を遂げる中で学園は施設整備を進め、多くの人材を受け入れ社会に送り出してきた。一方、バブル崩壊以降は東日本大震災、新型コロナウイルス感染拡大など長期間に渡って経済は停滞し、人口減少が加速、社会の仕組みや価値観は変化した。学生数の減少、高齢化といった成熟社会の課題を抱える環境のなかで、教育を提供する機関として時代に即した新たな対応が求められ、キャンパスグランドデザインを策定し、10年をかけてリニューアルを図ることとなった。

Site

立地環境

横内キャンパスは、青森市中心部から4.5km程度の郊外に位置している。市の南側にそびえる八甲田の山々へ続く国道103号線に面し、周辺には青森公立大学や青森大学もあり、キャンパスの集まっているエリアともいえる。問屋問屋町町というビジネスエリアに隣接し、道路を挟んだ東側には住宅街が広がっている。その他周辺は、ロードサイド店舗や田園が広がる環境に位置している。

青森市のシンボル八甲田連峰を望む横内キャンパス

キャンパス全体の建物配置

横内キャンパスは1970年竣工の1号館を皮切りに需要に応じて様々な建物が建てられてきた。建築年代にばらつきがあり、竣工から 40~50 年経過して、老朽化しているものなど一部は耐震改修や増築などを経て現在に至る。

日本を代表する建築家・毛綱毅曠氏(1941~2001)の設計による本部棟や、正門から導く配置計画などは当時の精神性を色濃く残しており、学術交流会館や7号館、国際交流会館などはデザイン的にも周辺地域のシンボル的な役割を果たしている。

建物配置と竣工年(2023年現在)

Grand design

キャンパスグランドデザインの策定と正門改修プロジェクト

様々な課題について調査・分析し(下表参考)、今後目指すキャンパスの姿を5つの基本方針にまとめ、全体のグランドデザインを策定した。
今回の正門改修は、ここで示したグランドデザインに基づいて実施した最初のプロジェクトである。

調査項目分析・課題
歩行者、自動車動線歩行者、自動車、自転車のエリア、動線が重なり歩行者のアクティビティが生まれにくくなっている。
複数の入口があるため、無秩序な駐車場利用と停車禁止エリアへの自動車の侵入がある。
授業移動動線教室移動の際、多くの生徒が通る主要動線がある。
授業移動の際、他にも屋内外で様々な動線が生まれている。
インフラ設備日常的に学園中心部に業者の車や用務員の作業車、バス、除雪車(冬季)が停められている。
学園メイン空間にゴミ置き場や作業道具が現れている。
屋外スペースと
ストリートファニチャー
屋外の居場所スペースが少なく、積極的な活用も少ない。
様々なストリートファニチャーがあるが、あまり利用されていない。
屋内と屋外の居場所スペースに連続性がない。
自然密集したり、脆弱な植栽基盤のために、改良すべき植栽環境がある。
学園内には緑豊かで多様な自然環境がある。
案内、誘導標識学園内のサインは形状が統一されておらず、段階的に案内する構成となっていない。
屋外における掲示板や広告サインは少ない。
境界門、門扉、仕切りの数・種類が様々なため、キャンパスエリアの境界が不明瞭となっている。
学園への進入口が複数あるため、目的地への誘導を難しくしている。
夜間時の明るさ街灯の光が届かず暗い場所が出来ている。
居場所スペースに灯りがない箇所がある。
その他個性豊かな建物。
特徴的な建物配置。
歩いてにぎわう街のようなキャンパス

適度な歩車分離や歩車共存の手法を用い、歩行者優先の安心な空間を目指す。キャンパスエリアの2本の公道(農道含む)をベースに車両の動線と駐車エリアを整備し、中心部(歩行者エリア)への車両の進入を最小限に抑える。

ストックを活かした回遊性のあるキャンパス

正門から5号館を抜け本部棟まで東西に延びるシンボリックな強い軸線がある。本部棟前の広場中央を通る軸線を囲うように1号館や2号館が建ち並ぶ景観は学園の大きな特徴である。一方で、建物各棟は渡り廊下で南北に連なっており移動頻度が高い通路であった。東西、南北2つの軸線を再整備することで、キャンパス全体の回遊性の向上を目指す。

10年後を見据えたローリングプラン

グランドデザインは、キャンパス全体が次世代の学び舎として着実にアップデートしていくことを目指して策定したものであり、10年という長い時間をかけて実現することを想定している。

有機的な曲線がいざなう「正門ひろばen」

名称の由来:門の形の「円」、enjoyの「en」、人との「縁」、小さなnは、様々な「えん」が指数関数的に増えていくことへの願いを込めて「正門ひろばeⁿ(えん)」とした。

Pre Design

改修前の正門

正門は国道に面しているものの入口を認識しづらく、塀と木立が視線を遮り閉鎖的な印象で、地域にとっても正門としてのシンボル性が低い状態であった。また、敷地内は公道や駐車場が混在し、送迎を含め車両が頻繁に行き交い、歩行者の安全やアクティビティが阻害されていた。さらに、建物が多いため初見では目的の建物までのルートが不明瞭であった。
正門は一般に施設の顔であり、門の周囲は塀が巡らされ外と内を分ける敷居の役割を担う。学園正門も煉瓦タイル貼りの門柱に鉄扉がついたもので、バス停に向かう学生や園児が朝夕通るだけの通過点であった。改修にあたっては、既存の価値観にとらわれず、これからの学園にとってふさわしい形を模索した。

改修前の正門/木立が茂り内部が見通せない

学園のアイデンティティとこれからの時代を見据えたデザイン

本プロジェクトは、枝を払い綺麗に整えるといったリニューアルにとどまらず、これからの学園の目指すところを示すものとして、キャンパスグランドデザインを具現化する出発点と位置づけた。その5つの方針に沿って進めることとし、建学の精神「愛あれ、知恵あれ、真実あれ」を掲げ、地域社会に開かれた学舎を運営してきた学園の姿勢の体現を目指した。
新しい正門は、心理的境界線となる塀を取り払い、既存塀の延長線上に、軸線へ導くように弧を描く庇を2つ配置して正門の視認性・誘引性を高めた。また、キャンパスの軸線と曖昧だった歩車動線を再考し、歩行者の安全と本部棟までの見通しを確保した。この庇の他、ベンチや広場を設け、休息や学生活動の場を作り、学生や園児だけでなく市民も交わる空間とした。

Concept

「開かれた学園」として、線を引き直す

まずは既存の門と塀の一部を解体、加えて正面を覆っていた樹齢30年を超えるヒマラヤスギを伐採した。そして再びコンクリートの強固な塀を延長するように緩やかに学園へといざなうラインを引いた。その塀が次第に消失するデザインとすることで、キャンパスの境界線から面(空間)への変化を演出した。塀の延長が生み出す2つの曲線は、キャンパスの中央を貫く軸線によって弧を描き、大小の円を描くデザインとした。

「通る」だけではなく「留まる」自由のある空間の創出

キャンパスは公道を挟んで複数の敷地が集合して全体を構成しており、門扉がありながら門として「閉じる」ことは物理的に不可能であり、むしろ「開かれた学園」としての認知度を高めるための改修が求められていた。
大学、短大、専門学校などさまざまな学びのスタイルがあり、国際色豊かで多くの留学生も存在し、リカレント教育にも力を入れていて社会人も通う、そんな多様な人々が行き交う様子が滲み出る空間こそが、「開かれた学園」のイメージを表現すると考えた。
そこで車両動線を明確化し、それ以外のスペースは多層的な利用ができる歩行者優先の空間として、雨や雪から守る庇と、コンクリートと木の2種類のベンチによるインクルージョナルな2つの円を作った。1つは、唯一車両が進入できるロータリー、もう1つは「芝の丘」。これらにより、学生が談笑しながらバスを待ち、幼稚園児が駆け回り、朝には散歩する地域住民が小休止するなど、垣根なく自由に過ごせる、単なる通路にとどまらない空間となるようデザインした。

上空より見る。本部棟(写真上部)へと軸線が続く。今後10年をかけて各エリアとともに軸線もリニューアルされていく

車優先から歩行者優先へ

以前の正門エリアは歩行者よりも車優先となっており、学園への来客者(の送迎)はもちろん、さまざまなサービス車両、園児の送迎バスや保護者の車両とが縦横無尽に行き交い、駐車も至る所に自由に停めている状態であった。改修にあたってキャンパスグランドデザインの5つの方針のひとつである「歩いてにぎわう街のようなキャンパス」に沿って、学生がキャンパスへと向かう単なる通り道を確保するのではなく、歩車の動線を引き直し、歩行者優先のエリアへの転換を図った。幼稚園前の「円」は、車の進入を幼稚園のバスと送迎用の保護者の車両に限定したロータリー(送迎用車寄せ)とし、キャノピーは車の乗降のための庇として使うことができる。停車する時間を短くすることで、歩行者優先のエリアとして印象付けることを目指した。一方で、一定時間の駐車をする来客者へは、隣接する来客用駐車場を整備し、キャノピーの庇を通って学園や幼稚園にアプローチすることができるよう計画した。

芝の丘とそれを囲む鉄骨造の柱や梁と木製の庇
唯一車両の進入が可能な幼稚園の送迎用ロータリー

Design

複数の曲線から構成される多層的な輪郭を持つデザイン

2つの円全景。アシンメトリーでいくつもの曲線が重なったようなデザインが、軽やかで動きのあるシーンを生む

自由曲線を思い起こさせるような2つの非対称(アシンメトリー)な曲線体は、幾何学的な正円をいくつも重ね合わせてできている。左右の円の曲げ加工の梁の曲率半径が異なるのはもちろんのこと、コンクリートの床やベンチおよび塀、木屋根など様々な高さに正円が存在する。さらにその中心点を少しずつ変位しながら重層させることで、有機的な広がりのある三次元の空間となるようデザインした。
1本の自由曲線としなかった訳はもちろん施工性の問題もある。しかしそれ以上に、いわゆる「正門」のイメージにありがちな固定的で権威的な重厚感を和らげ、学生や園児たち、そして地域の人たちが気軽に立ち寄り、自由に使えるような開放的で明るい空間とするための曲線の集合体なのである。

様々な正円が重層する座標図

幾何学的な正円の重ね合わせ

床、塀、鉄骨梁、屋根、ベンチなどは、中心の異なる幾何学的な正円を繋ぎ合わせ、それぞれ異なるラインでつくった。低くなるにつれて細くなる木屋根とコンクリート床やベンチは異なる曲線で重なり交差している。

曲げ加工した梁と偏在する柱

規則的に並ぶ列柱ではなく開放感のある空間とするために、柱はランダムに円の内側と外側交互にかつ異なるスパンで立つ。梁の高さが低くなるにつれて柱の太さも細くなっている。

冬には雪がかたちづくる曲線が新たに加わる

地元技術者との協働

本プロジェクトにおいて、ヒマラヤスギの伐採からサインや家具に至るまで、全工程を地元企業による地域の職人の手により実現した。構造躯体については、設計段階から鉄工所と工務店との綿密な打ち合わせを繰り返し、曲線を描く鉄骨の梁や薄く緩やかに傾斜する屋根など複雑な構造を実現した。

塀から床、ベンチに変化するコンクリート

既存塀から延長した緩やかなカーブのコンクリート塀は、徐々に高さを低くし床と一体化させた。地盤面は緩やかに傾斜しているため、コンクリートの床は基本的に歩道でありながら、一部地盤面との高低差を利用したベンチとなるようデザインした。

地盤の高低差を利用したベンチ
既存の塀のラインは次第に床へ変化
芝の丘に設置した次第に低くなる塀とベンチ

Structure

最大8.2mスパンの曲梁とキャンティレバーによる鉄骨構造

曲げ加工の梁を段々と高さを変えて接続したキャンティレバーの梁と柱

大小それぞれの円に沿って緩やな勾配で変化する形は、柱と梁を鉄骨造とし、屋根を木造とする混構造を採用することで可能になった。庇が低くなるにつれて細くなっていく有機的なラインは、曲線状に加工したH型鋼を段々と高さを変えて接続し、その接合部をキャンティレバーの梁で受けた。柱のスパンは低くなるにつれて短く、かつ円の内側と外側交互に立つ構造とした。これにより規則的に並ぶ列柱のような権威的ではない、自由で開放感のある空間をデザインした。また、積雪荷重などを考えると堅牢で重厚なつくりになりがちな青森の建築であるが、ランダムな柱と左右非対称の庇により軽やかな印象を与えることができた。

ケラバ側詳細図
工場にて曲げ加工したH型鋼の梁
曲げ加工した梁を現場で溶接
キャンティレバーの梁を溶接した柱が建ちはじめる
鉄骨造にしたことで青森の積雪にも耐える

Roof

束と母屋がつくる浮遊するような木屋根

鉄骨の束と木の母屋による滑らかな三次曲線の薄い屋根。梁上に組み込んだ照明が2つの円を浮かび上がらせる

曲がりながら段々と低く細くなる庇の形状は、三次元に変化する。その繊細なラインは木造とすることで実現した。庇の形状に合わせ放射線状に455mmピッチで母屋の高さを算出、それらを受ける束は鉄工所にて1本ずつ溶接した。現場にて鉄骨を組み立てた後は、大工が194本全て長さの異なる母屋を微調整しながら設置した。その上に構造用合板を敷き、内側への水勾配を取りながら滑らかに低くなる、という三次元にひねられた面を構成し防水シートで仕上げた。

三次元曲面の屋根は微振動や材料伸縮に追随するために防水シートを用いているが、軽やかな屋根を実現するために唐草端部は鉄板納まりとしている。

左から右へ徐々に母屋の長さが短くなっていく
母屋は現場で1本ずつ取り付け
工場で溶接した束。1本ずつ高さが異なる
野地板に防水シートで仕上げ
低くなるにつれて細くなる2つの庇が、開放的で軽やかな印象を与えている

Locality

豪雪都市青森ならではの課題の克服と新たな価値の創造

柔らかな白い綿を纏ったような冬の晴れ間は怖いほど美しい

青森市は世界有数の豪雪都市であり、一年の約3分の1は雪に覆われていると言っても過言ではない。冬は積雪や凍結により生活の危険度が増す季節でもある。
同市の設計積雪量は1.8mと定められており、1㎡あたりの荷重は約300kgに上る。日が差せば雪は溶け、夜にはその一部が氷になり、降雪のたびにその塊は大きくなっていく。風向きによって一方向へ雪が迫り出す「雪庇(せっぴ)」が建物に過大な負担をかけるため、青森ではその過酷な状況を想定したデザインが必須である。厳しい環境ではあるが、雪は街のアイデンティティのひとつであり、その美しさに息を呑む瞬間が巡ってくる。特に東南アジアからの留学生にとって雪景色は衝撃的だという。曲線の庇にこんもりと積もった雪と青空は、彼らの学生生活の記憶に残るワンシーンとなるだろう。連日雪かきに追われる市民にとっても、ふと立ち止まって眺めたくなる雪のまち青森ならではの景色となるようデザインした。

融雪による負担軽減と冬の動線デザイン

一部の通路とロータリーに地下水熱を利用した融雪設備を埋設した

本プロジェクトでは、地下水熱を利用した融雪設備で除排雪の負担を軽減することに取り組んだ。キャンパスでは毎日早朝から重機による除排雪を行っているが、広大な敷地ゆえに運営費に大きく影響している。
幼稚園の車寄せとなるロータリー全面と、歩道はキャンパス中央を貫く軸線と「庇下」部分に融雪を施工した。それにより積雪時に軸線がはっきりと浮かび上がり、冬ならではの学園の景色を生み出すことができた。
またSDGsの観点から、今回の融雪の取り組みが環境負荷を軽減すると同時に、歩行に不安がある方にとって、より安全な歩道の提供ができたものと期待する。

融雪範囲

既存設備を活かしたサスティナブルな融雪

横内キャンパスでは、これまでもプールや学生寮などで地下水を利用してきたため、汲み上げポンプや沈砂槽、受水槽などの設備が既に整っていた。今回の融雪システム施工にあたっては、既存の設備である沈砂槽に熱交換コイルを設置するだけで熱源を確保できたため、今ある仕組みを上手く活用し、サスティナブルな融雪を実現した。

融雪システム(地下水の熱を活用)
融雪の効いた通路や軸線
融雪パイプ敷設時の様子
ライトアップされた雪景色

Sign Design

まちの新たな顔となり、灯りとなる正門

夕景。H型鋼の梁に沿って浮かび上がる学校名サイン

キャンパス内には大学、短大、2つの専門学校が設置されており、その4つの名前を示す必要があった。そこで特徴的な曲線のラインに沿って、学校名サインをデザインした。夜間は梁の裏に組み込んだライン照明により、庇とともに浮かび上がる。建学の精神「愛あれ、知恵あれ、真実あれ」を、世界中の人が認識できる英語表記の「LOVE WISDOM TRUTH」とし、緩やかに下がってきた庇に沿って小さくなる箱文字のモニュメントとした。同学の精神を表現しつつ学生の目に触れる機会を増やし、入学・卒業などの節目には記念撮影スポットにもなる。
夜間は校名サインとモニュメントもライトアップされ、学園の新たな正門としての視認性を高めつつ、まちの灯りとなるようデザインした。

正門から八甲田を望む
校名サイン取付詳細図
建学の精神モニュメント姿図
建学の精神「愛あれ、知恵あれ、真実あれ」

学園オリジナルモチーフ

学生や園児に親しみを感じてもらう遊び心として、正門各所に学園シンボルマークと学園キャラクターをモチーフに取り入れた。また、次項で紹介するベンチプロジェクトでは、これらのモチーフをもとにオリジナルの焼印を製作した。

キャラクターを組み込んだ車両誘導サイン
シンボルマークの花モチーフを梁に型抜き
正面夕景。左に4つの学校名、右に箱文字のモニュメントが木の庇とともにまちの灯りとなる

Bench Project

学園のレガシーを共有するベンチプロジェクト

成長しすぎて正門を覆っていた木立は、グランドデザイン策定時から検討を重ねた結果、改修時に伐採する運びとなった。しかしながら、長年正門を見守ってきたこの6本のヒマラヤスギは、名実ともに学園のレガシーである。これを次の時代へ受け継ぐため、工事と同時進行で新しい正門のベンチとして再生するプロジェクトを企画した。地元の森林組合や家具職人らの協力を得て、伐採から製材、組み立てと全て地域の人の手で完成させるものである。

座板のサイズにカットしたところで学園に運び、学園祭で焼印を押すワークショップを開催した。学生や園児、学園スタッフはもちろん、地域住民、隣接する特別養護老人ホームの入所者、卒業生、高校生など様々な人が参加し、ヒマラヤスギの思い出とともに学園のシンボルマークやキャラクターを刻んだ。ヒマラヤスギは地域の人々の手によって学園オリジナルのベンチに生まれ変わり、新しい正門とともに学園を見守っていく。

改修前の正門

正門の2つの円の曲線に沿うように設計したオリジナルデザイン。固定はせず、利用者が自由に活用できるようにした。伐採したヒマラヤスギから仕上がった座板は530枚余り。ベンチの脚部は腐りにくい木材を採用し、ヒマラヤスギは座板のみに使用した。使用した残りは、ベンチの増設または腐朽・破損した際のストックとして保管される。

大小の円に合わせて製作した、曲線を描くヒマラヤスギのベンチ

Interaction

開かれた門から広がる多様な活動とつながり

朝夕に学生や園児と保護者が通ってゆくだけであった正門を、多様な使い方ができるようデザインした。学園では年間を通していくつもの行事が開催される。入学式や卒業式、オープンキャンパスや学園祭。夏の「青森ねぶた祭」に情熱を注ぐ囃子サークルも、キャンパス内で練習を重ねる。まちが白銀に埋め尽くされる雪の季節にはイルミネーションで彩る。そうした大小さまざまな活動がしやすくなるように、さらに自由な使い方ができるように、新しい正門には屋外電源や垂幕用フックなどを整備した。

イベント開催時のイメージ


正門ひろばeⁿの完成を記念して開催したセレモニーでは、「芝の丘」で学生サークルがねぶた囃子、津軽三味線、バンド演奏を披露。ヒマラヤスギのベンチは、式典とライブ演奏とで配置を変えた。ロータリーにはキッチンカーが並び、学生や子どもたちであっという間に行列ができた。歩行者専用になった空間で園児たちが駆け回る。国道で信号待ちをするドライバーがその光景を眺める姿も見られた。

芝の丘を舞台にライブパフォーマンス
学園生活の記念撮影の場として
ロータリーにキッチンカーが集結
正門ひろばのイベントを楽しむ園児

改修により、木立と塀で遮られていた正門は大きく開かれ、奥へ連なる建物まで見通せるようになった。学園に集う学生や園児たちの生き生きとした姿は、今後まちの景色となる。
新たな正門が地域のランドマークとして徐々に認知され、境界線の向こうと混じり合い身近なものに変わっていくことを願う。この場所は、誰にでも開かれている「とまり木」なのだ。ここで学び、遊び、これから羽ばたいていく学生たちが思い出す学び舎は、この正門からの風景である。

歩行者専用になりゆったり過ごせる
日常的に芝の丘で遊ぶ園児